INR は大文字で書く。International Normalized Ratio の略で、ロシアの検査報告書では同じ比を МНО と呼ぶ。この数は無次元で、単位を付けずに小数点以下一〜二桁で書く。INR 2.4 であって、「2.4 秒」でも「2.4 %」でもない。
INR はプロトロンビン時間ではない。秒数は試薬と装置によって変わるが、INR はわざとその影響を取り除いてある。また、パーセントで表すクイック法のプロトロンビン活性とも違う。こちらは目盛りが逆向きで、血液が固まりにくくなるほどパーセントは下がり、INR は上がる。
INR の記号が入った血液の滴の中で、淡いフィブリンの糸が伸びては消え、二つの赤血球が血漿の中で揺れながら、やがて血餅に捕らえられる。滴はゆっくり明滅し、右では凝固分析装置のストップウォッチが進み、下の INR 目盛りのスライダーは緑色の治療域 2.0—3.0 の中央、2.5 まで進む。
単位シート
無次元の比 · 血液凝固 第 1/1 葉 · 改訂 2026-09国際標準比 INR
無次元量 · プロトロンビン時間の比を ISI 乗したもの
同じ錠剤のために生まれた数
1970 年代、マンチェスターでワルファリンを飲んでいた患者とボストンの患者は、同じ検査、つまりプロトロンビン時間(血漿が固まるまでの秒数)を受けており、どちらの町の医師もそれを二〜二・五倍に延ばすことを目指していた。ところがイギリスの検査室はヒトの脳から作った感度の高い試薬を、北米の検査室はウサギの脳から作った感度の低い試薬を使っていた。そのため同じ「基準の二倍の長さ」でもボストンではかなり多い用量が必要になり、誰もが同じ規則に従っていたのに、アメリカの患者のほうが出血を起こしやすかった。
1983 年、WHO は、計量の専門家が測定器を一つの精度等級にそろえるのに似た解決策を提案した。どの試薬にも、国際標準品との比較で求めた感度指数 ISI を添付文書の値として与え、時間の比をその値で累乗する。こうして得た INR は、検査室がどの試薬を使っていても同じになるはずだ。
このページでは同じ血液を四つの試薬で調べ、補正が係数ではなく累乗である理由と、ISI が不正確に決められたら何が起こるかを示す。
01 · 定義
プロトロンビン時間 · MNPT · ISIINR は、患者のプロトロンビン時間と、同じ検査室の平均正常プロトロンビン時間 MNPT との比を、試薬の感度指数 ISI で累乗したものである。プロトロンビン時間とは、血漿にトロンボプラスチンとカルシウムを加えてから血餅ができるまでの秒数で、MNPT は同じ試薬と装置で測った二十人以上の健康な人のこの時間の幾何平均である。
ISI は校正によって求める。健康な人とワルファリン服用中の患者の血漿を、その試薬と WHO 国際標準トロンボプラスチンの両方で測り、時間の対数どうしの関係をグラフにする。点は直線に乗り、その傾きが ISI である。直線は対数で引かれているので、比に対する補正は係数ではなく累乗の指数になる。
標準試薬には定義により ISI 1.0 が与えられている。凝固因子の低下に対する感度が低い試薬ほど時間の延びは小さく、ISI は大きくなる。現代の組換え試薬の ISI はほぼ一だが、古いウサギ由来の試薬では 2.5 に達し、そのため二つの検査室の秒数の差が一・五倍にもなった。
秒は違っても、数は一つ
同じ患者の血漿を、トロンボプラスチンの異なる四つのキュベットに分注し、上の共通ストップウォッチが四つの測定を同時に始める。各キュベットでは機械式凝固分析装置の鋼球が揺れている。血漿が液体のうちは自由に動くが、血餅ができてフィブリンの糸が伸びると球は止まり、キュベットはその時間を記録する。キュベットの下には秒数、MNPT との単純な比、ISI 乗したあとの INR が表示される。
ISI {isi} · MNPT {mnpt}
添付文書をもつ試薬
電流計の銘板に精度等級が記されているように、トロンボプラスチンの箱には ISI が記されている。どちらの数も装置の構造から計算したものではなく、標準との比較で得られている。違いは、精度等級が起こりうる誤差を警告するだけなのに対し、ISI は結果の式に直接入ることで、それが誤って決められていれば、その検査室のすべての INR が誤ったものになる。だから ISTH の勧告は、「試薬と装置」の組ごとに ISI を現場で確認するよう求めている。INR が三前後のとき、指数の十パーセントの誤差は結果を十一パーセント近くずらす。
02 · 換算
秒から INR · INR から秒 · ISI の誤差秒から INR へ、そして逆へ
プロトロンビン時間を秒で入力して試薬を選ぶと、このページは INR を計算し、同じ秒数がほかの試薬ではどの INR になるか、目標値に何秒必要か、不正確な ISI が結果をどれだけずらすかを示す。
覚え方:試薬名のない秒数には意味がなく、秒数のない INR にはすべての意味がある。
INR はビタミン K 拮抗薬、とりわけワルファリンを服用する人のために考案され、校正されたものだ。直接経口抗凝固薬(DOAC)の服用中や肝疾患では、検査室が値を印字しても、それは抗凝固の程度を反映しないので、目標範囲 2.0—3.0 と比べてはならない。
| {k} | {v} | {note} |
{text}
04 · 測定器
試験管 · 鋼球 · 光 · 試験紙血餅に気づく四つの方法
ストップウォッチと検査技師の手
アーマンド・クイックは 1935 年、血漿の入った試験管を 37 °C の水浴に入れ、カルシウムを加えたトロンボプラスチンを加えてストップウォッチを押し、血漿が流れ落ちなくなるまで一秒ごとに試験管を傾けた。この方法は半世紀のあいだ手作業のままで、技師ごとの目や手の動きの違いもばらつきの一因となった。そのばらつきを、のちに一つの数にまとめなければならなくなったのである。
粘りに捕まった球
血漿の入ったキュベットには鋼球があり、交番磁場がそれを底で転がす。血漿が液体のうちは揺れ幅は一定だが、フィブリンの糸が球をとらえた途端に揺れ幅が急に小さくなり、装置はその時間を記録する。機械式の方法は、光学式の装置では血餅を見分けにくい濁った血漿、黄疸血漿、乳び血漿にも強い。
影として見える血餅
大型の検査室分析装置は、キュベットを透過した光を監視している。できてくるフィブリンが光を散乱させ、透過率の曲線は段状に下がる。装置はその屈曲点を見つけてプロトロンビン時間とし、一時間に数百検体を処理する。そのすべてに、自分の「試薬と装置」の組に対応する同じ ISI を適用する。
検査室のいらない INR
携帯型凝固分析装置は、試験紙の上で全血一滴の凝固を測る。多くは電気化学的に、トロンビンができるときの電流の変化から測定し、試験紙のロットの ISI で換算した INR をすぐに表示する。機械式心臓弁をもつ人は家庭でこれを使って自分で用量を調整しており、研究では、このような自己管理のほうが、たまに検査室に通う場合より血栓症が少ないことが示されている。
05 · 表記の規則
数 · 秒 · 範囲INR に単位はなく、秒には試薬を添える
INR は数だけで書き、プロトロンビン時間は秒で検査室の基準値とともに書き、目標範囲は二つの境界をダッシュでつないで書く。
右側の一行目は無次元の比に秒を付けており、二行目は範囲をパーセントにしてしまい、三行目は MNPT も ISI も知らずに秒から INR を導いている。四行目は感度指数、つまり累乗の指数に時間の次元を与えている。五行目はロシア語の МНО をラテン文字で打っているので、報告書を検索しても見つからない。六行目は、INR が校正されていない薬にワルファリンの目標範囲を当てはめている。
06 · 隣り合う単位
秒 · 国際単位 · クイック値INR には三つの隣人がいる。凝固時間そのものを測る秒、ヘパリンや凝固因子の投与量を表す国際単位、そして同じ検体を正常血漿に対する割合としてパーセントで表すクイック法のプロトロンビン活性だ。
プロトロンビン時間の単位。二つの時間の比から INR がつくられる。
WHO 標準と同じ考え方を、ヘパリンと凝固因子の活性に用いたもの。
検量線から求めた正常血漿に対する割合。INR が上がると下がる。
07 · 歴史の部
アーカイブ · 腐ったスイートクローバーから WHO まで牛の病気はどのように錠剤になり、錠剤は数になったか
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INR 2.5 は何秒か
棒の高さは、INR 2.5、MNPT 12 s とした場合の、ISI 1.0、1.3、1.8、2.3 の試薬でのプロトロンビン時間で、目盛りはゼロから 30 s まで。式 PT = MNPT · INR^(1/ISI) で計算した。枠は試薬を順にたどる。
時間の比だけで見れば、この血液は 2.5 にも 1.5 にも見えてしまう。四本の棒を一つの数にまとめるのは ISI 乗だけだ。
補正が係数ではなく累乗である理由
同じ血漿を二つの試薬で測り、秒数の対数を互いに対してプロットすると、点は直線に乗るが、その傾きは一にならない。感度の低い試薬は時間の延び方が遅く、標準の一歩に対してその一部しか進まない。対数で直線になるということは時間そのもののあいだにべき乗の関係があるということで、ある試薬の比を別の試薬の比に換算するには、傾きの比に等しい指数で累乗しなければならない。
WHO の標準トロンボプラスチンには傾き一が割り当てられたので、どの試薬の指数も、標準に対するその試薬の傾き、つまり ISI そのものになる。この指数で累乗した比は、標準試薬なら示したはずの比になり、世界中の検査室が一つの数で話し始める。
標準そのものも取り替えなければならない。もとのヒト脳由来の試薬はとうに使い切られ、WHO 標準の新しいロットはそのつど前のロットに対して校正される。そのため INR は国際単位と同じく、1970 年代の一箱にさかのぼる比較の連鎖に支えられている。

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